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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)206号 判決

東京都台東区千束一丁目一七番一号

原告

長谷川冨男

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官

植松敏

右指定代理人

吉田親司

杉本文一

宮崎勝義

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が、昭和六〇年審判第二二〇八三号事件について平成二年七月五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五八年二月二八日、意匠に係る物品を「起き上りダルマ」(のちに「臍付きダルマ」と補正)とする別紙一に示すとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五八年意匠登録願第七九七七号)をしたところ、昭和六〇年八月二〇日、拒絶査定を受けたので、同年一一月一一日、これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和六〇年審判第二二〇八三号事件として審理した結果、平成二年七月五日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした。

二  審決の理由の要点

1  本願意匠は、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「臍付きダルマ」とし、その意匠の内容を別紙一のとおりとするものである。

2  これに対して、本願意匠に類似するとして当審において拒絶の理由に引用した意匠は、本出願前である昭和四五年一二月二三日特許庁資料館に受け入れられた図書「日本のおもちゃ」(山田徳兵衛著 芳賀書店発行)の一一六頁所蔵の写真版(タイトルだるまづくり)に表された最前列の六体のだるま中、右から三番目の絵つけ前のだるまの意匠であって、同頁記載の全体から、意匠に係る物品が「だるま」であり、意匠に係る形態が写真版によって表されたもので、その意匠の内容は、別紙二に示すとおりである。

3  そこで、本願意匠と引用意匠について、比較検討すると、両意匠の形態について、全体が、下脹れの略卵形様であって、正面の上方略半分に大きな隅丸矩形様の凹部を形成して顔部とした基本的な構成態様が一致しており、その具体的な態様についても、顔部上辺に左右一対の大きな丸い眼を表し、その中央に鼻を表し、顔部の四周を括れ様にわずかに突出させた態様の点が共通しているものである。

4  ところが、両者間には、本願意匠が、腹部に相当する膨らまった部位の中央に、小円形の凹部を表しているのに対して、引用意匠にはこれが表されていない点に差異が認められる旨、請求人(原告)は強く主張しているところである。しかしながら、本願のものは、ほとんど特徴のみられない小円形の凹部であり、その深さも浅いものであって、全体からみると部分的で小さな差異にすぎず、また、その部位に装飾的家紋等を付す旨についても主張しているが、その点については、標識的乃至商業的機能はともかくとして、意匠的にはほどんど創作的要素がなく、意匠上の特徴が認められないものである。したがって、その差異が両意匠の類否判断に与える影響も微弱なものというほかなく、両意匠の類否判断の要素として高く評価できないものである。

5  してみると、上記の差異があいまった効果を考慮したとしても、前記の一致するとした基本的な構成態様及び共通するとした具体的な態様は、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであるから、たとえ、その構成態様にさほどの特徴が認められないものであったとしても、看者の注意を強く惹くところであって、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。したがって、両意匠の形態について、類否判断を左右する支配的要素による「まとまり」が共通し、これから生ずる美感をも共通にすることとなるから、両意匠は類似する意匠であるといわざるを得ない。

6  以上のとおりであって、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるから、意匠法三条一項三号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。

三  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2は認める。同3は認める。同4、5の認定判断は争う。一致するとした基本的な構成態様及び共通するとした具体的な態様をもって類否判断を左右する支配的要素であるとしたのは誤りである。審決は、本願意匠の要部(看者の注意を最も惹き易い部分)の認定を誤り、本願意匠と引用意匠とに共通した、従来周知なありふれた形態をもって意匠上の要部とみたことによって、本願意匠と引用意匠とが類似する意匠であるとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  一般に、両意匠が類似するか否かの判断は、意匠に係る物品自体の性質、特徴を理解し、その意匠における従来からの傾向を見極め、その意匠の創作がどこにあるかを検討し、看者に強い印象を与える程度の意匠上の差異があるかどうかを検討しなければならない。そして、類否判断においては、意匠を全体として考察することが必要であるが、この場合看者の注意を最も惹き易い部分を要部として把握し、これを観察して一般の需要者が誤認、混同するかどうかという観点からその類否を決するのが相当である。この場合に、意匠の構成として、看者の注意を最も惹き易い部分(要部)と一般にありふれた周知の形状部分とが含まれている場合には、この周知の形状部分は、一般の需要者の注意を惹くことはないから類否判断を左右する意匠の要部とはなり得ないことは勿論である。これを本願意匠についてみるに、本願意匠は、願書添付の正面図及び正面図縦中央断面図に明瞭に表されているように、次の〈1〉ないし〈4〉のような特徴的形態を備えた円形の凹部(以下これを単に「円形の凹部」ということがある。)を設けた点に意匠として特徴があるものである。

〈1〉ダルマの腹部に相当する膨らまった部位の中央に円形の凹部が設けられていること、

〈2〉その凹部の深さはだるまの腹部の断面肉厚の約二分の一以上の深さを有し、その凹部の底面は平滑な平面に形成されていること、

〈3〉凹部の円形の大きさは右ダルマの黒眼を包含する白眼よりも大きなものであること、

〈4〉この円形の大きさは、願書添付の正面図に描かれた円形の大きさよりも、実際上は、かなり大きく視認できるということ、正面図縦中央断面図に明瞭に表されているとおり凹部内面は底面(平滑な平面)に向かって緩やかに萎んで、ほぼすりばち状の形状を呈し、凹部の開口部周縁(円形状である)は縁取りされて角がない曲面状(機械の分野ではRをつけると称する。)に形成されているが、意匠図面の作図法にしたがって右の円形の凹部を正面図として描くときは、Rをつけた開口部縁部は図面上には現れず、底面の輪郭の部分だけが図面上に現れることになる。したがって、願書添付の正面図には、凹部の大きさは底面に等しい大きさの円形として表示され、実際には底面の大きさよりも大きい開口部周縁の輪郭形状は、図面上には現れないからである。

なお、被告は、本願意匠の円形の凹部について、浅い「へこみ」と視認できるものであると主張するが、前記〈1〉ないし〈4〉のような特徴的形態を有する凹部であることからしても、浅い「へこみ」とみられるようなものではない。仮に、浅い「へこみ」と視認されるものであるとしても、だるまの生産過程において自然にできる天然の形象としての浅い「へこみ」と同視できるものではないが、天然の形象としての浅い「へこみ」であっても、殊更、これを注視するまでもなく、一見して看者はこれの存在を視認し得るものであり、本願意匠の円形の凹部についても同様である。

そして、右のような円形の凹部に、別に合成樹脂その他の材料で装飾的に加工製作した祈願の対象とする家紋や標章等(以下「装飾的家紋等」いう。)を嵌合固着することで、縁起ダルマの機能を発揮せしめる形態としたものであるから、右の円形の凹部に本願意匠の形態的特徴があり、ここに、本願意匠の本質的価値(祈願の対象とする臍付き縁起ダルマの価値)があるのである。右のような円形の凹部を設けた本願意匠は、全体として引用意匠を含む従来のダルマの意匠にみられない、極めて斬新な形態的資質とそれによって表出される造形上の特徴(特徴的形態)が表されているとの印象を看者に与えるものであり、その特徴的形態を備えるが故に、本願意匠が付されたものが臍付きダルマとして認識されるものであって、右の特徴的形態なしには、その臍付きダルマの名称をもって認識されるものではない。そして、右の特徴的形態は、本願意匠に係る物品を全体として観察した場合に、最も強く看者の注意を惹く部分に円形の凹部として体現されているのであるから、臍付きダルマとして認識される過程において、右の特徴的形態が、その構成部分を総合した全体的なまとまりとして、視覚的に強く看者に印象づけられ、全体として看者に新たな趣味感ないし審美感を誘発することになる。してみれば、本願意匠は、右の円形の凹部に意匠の創作があり、かつこの点において引用意匠を含む従来のこの種物品の意匠には全くみられない極めて目新しい、看者に強い印象を与えるに十分な意匠上の差異を創成したものといえるのである。したがって、本願意匠の要部は、右の特徴的形態にあるものとみるべきである。

2  しかるに、審決は、本願意匠の特徴的形態であるところの「円形の凹部」について、意匠上の特徴が認められないとの誤った認定判断したうえ、本願意匠と引用意匠とに共通する基本的な構成態様及び具体的な態様をもって、類否判断を左右する支配的要素として両意匠の類否判断をしたために、両意匠が類似する意匠であるとの誤った判断に至ったものである。審決が、基本的な構成態様とした形態及び具体的態様が両意匠に共通していることは争わないが、このような基本的な構成態様及び顔部の構成は、あくまでも一般的なありふれた周知のダルマの形態の基本を形成する輪郭と顔部のみから構成されたいわゆる骨格的態様をとらえたものであって、その構成自体には何ら意匠の創作的特徴はないのである。このようなありふれた周知の形状が、一般の需要者の注意を惹くことはなく、したがって、類否判断を左右する意匠の要部とはなり得ないのである。本願意匠には、前述のとおり円形の凹部に特徴的形態がみられ、この部分が最も看者の注意を惹くところの意匠の要部をなすものとみるべきであるから、ありふれた周知の形状である、右の「共通した基本的構成態様及び具体的な態様からなる全体の形態」が、一般の需要者の注意を惹くことはないのである。審決は、本願意匠の要部の認定を誤り、これが審決の結論に影響を及ぼすことも明らかであるから、違法として取り消されるべきである。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一、二の事実は、認める。

二  同三の主張は、争う。審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような違法の点はない。

1  本願意匠における「円形の凹部」が、原告主張の〈1〉ないし〈3〉のような形状のものであることは認められるが、右の円形の凹部を原告が〈4〉として主張するようなものとは認識できない。審決も、腹部に相当する膨らまった部位の中央に表された円形の凹部について、前記〈1〉ないし〈3〉のような形態を「小円形の凹部」と表現したものである。

2  しかしながら、本願意匠における「円形の凹部」は、原告の主張するように、意匠上の特徴的形態とはいえず、ましてや、この点が本願意匠の要部とはいえない。すなわち、円形の凹部は、その正面図縦中央断面図及びその他の図面からみる限り、意匠全体からみれば、かなり浅いものであることが明らかであり、また、円形の凹部自体が腹部の緩やかなほぼ球面上に表されたものであることから、いわゆる「穴」的なものではなく、浅い「へこみ」と視認できるところである。その上、円形の凹部それ自体は、極めてありふれた形状であることは論をまたないところである。したがって、審決が、右の円形の凹部について「ほとんど特徴のみられない小円形の凹部であり、その深さも浅いものであって、全体からみると部分的で小さな差異にすぎ」ないとし、この点は「両意匠の類否判断の要素として高く評価できないもの」としたことには何ら誤りはない。また、原告は、本願意匠が右の円形の凹部を特徴的形態としてもつが故に、そこに本願意匠の本質的価値(祈願の対象とする臍付き縁起ダルマの価値)があり、全体として引用意匠を含む従来のダルマの意匠にみられない、極めて斬新な形態的資質とそれによって表山される造形上の特徴(特徴的形態)が表されているとの印象を看者に与えるものである旨主張するが、装飾的家紋等を、日用の家具調度品等に付すことは乙第二号証の二(株式会社美術出版社発行「紋章/天地・草木」四八頁のさいせん箱)、乙第三号証の二(同社発行「紋章/鳥獣魚・形・印・字・具」六七頁の木像)、乙第四号証(昭和五五年五月一四日特許庁意匠課受入の株式会社ヤマダイ美商のカタログ「風格のある表札」)にもみられるように広く知られているところである。また、人形、置物、器物等に装飾的家紋等を別途固着することもよく知られているところである(社団法人日本ひな人形協会発行「にんぎょう日本」四一号・乙第五号証の二には、紙その他の材料等により加工製作された転写紙の家紋を屏風、段布、太刀飾り等につけることができる旨の記載がある。)。

更に、だるまの腹部に模様や文字を表すことも古くから広く知られているところである。例えば、昭和四三年六月一〇日株式会社東京堂出版発行の斎藤良輔編「日本人形玩具辞典」の三〇八頁(乙第六号証)には、豊岡達磨について、「家内安全、商売繁盛などの縁起から、大福、福などの文字が腹部に記されており、『福達磨』と呼ばれている。」との記載がなされている。したがって、右の円形の凹部に装飾的家紋等を付すことが予定されているといっても、直ちに、原告の主するように、「従来のダルマの意匠にみられない、極めて斬新な形態的資質とそれによって表出される造形上の特徴(特徴的形態)が表されているとの印象」を看者に与えるものとはいえない。

右のとおり本願意匠の「円形の凹部」には意匠的特徴があるものとは認められないことから、審決も、「標識的乃至商業的機能はともかくとして、意匠的にはほどんど創作的要素がなく、意匠上の特徴が認められないものである。」と判断したものである。

円形の凹部が看者の注意を最も惹くところであるから、この点に本願意匠の要部があるとする原告の主張は失当である。

3  このように、本願意匠には看者の注意を特別に惹くところがないところから、審決も、本願意匠と引用意匠とに共通した基本的構成態様と具体的な態様が「両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といわざるを得ない。」と判断したものである。そして、両意匠に共通した右の基本的構成態様と具体的な態様がたとえ、周知の形態であるとしても、その全体的な形態が意匠の要部(最も看者の注意を惹く点)となり得ないものではなく、それが周知の形態でない場合に比べて、その重要性の比重が相対的に低下するにすぎないだけのことである。かかる観点から、審決は、「(共通した基本的構成態様と具体的な態様からなる)構成態様にさほどの特徴が認められないものであったとしても、看者の注意を強く惹くところであって、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない」と判断したうえで、類否判断を左右する支配的要素による「まとまり」が共通している以上、これから生ずる美感をも共通にすることとなるから、両意匠を類似意匠とみたものである。

4  右のとおりであるから、審決における本願意匠の要部の認定には誤りはなく、これに基づく両意匠の類否判断も正当であって、本願意匠の要部の認定を誤ったとする原告の主張は失当である。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  取消事由の判断

1  本願意匠が意匠に係る物品を「臍付きダルマ」とし、別紙一に示すとおりの構成としたものであり、引用意匠が別紙二に示すとおりの絵つけ前の「だるま」(最前列の六体のだるま中、右から三番目の絵つけ前のだるま)の意匠であること並びに本願意匠と引用意匠の形態が、「全体が、下脹れの略卵形様であって、正面の上方略半分に大きな隅丸矩形様の凹部を形成して顔部とした」基本的構成態様(以下右の形態を「基本的構成態様」という。)が一致し、「顔部上辺に左右一対の大きな丸い眼を表し、その中央に鼻を表し、顔部の四周を括れ様にわずかに突出させた」具体的態様(以下右の形態を「共通した具体的態様」という。)の点でも共通していることは当事者間に争いがない。

2  原告は、本願意匠の構成のうち腹部に相当する膨らまった部位の中央に表された「円形の凹部」が看者の注意を最も惹き易い部分であるから、ここに本願意匠の要部がある旨主張するので、この点について判断する。

成立に争いのない甲二号証の二(願書添付の図面・別紙一)によれば、「円形の凹部」が腹部に相当する膨らまった部位の中央に表されたもので(原告指摘の〈1〉)、正面図縦中央断面図をみると、凹部の深さもだるまの腹部の断面肉厚の約二分の一以上であって(原告指摘の〈2〉)、その大きさはだるまの黒眼を包含する白眼よりも大きなものである(原告指摘の〈3〉)ことが認められ、円形の凹部が少なくとも右のようなものであることについては、被告も争わないところである。

右の円形の凹部の形態について、更に、原告は、正面図に描かれた円形の大きさは凹部の底面を表示したものであり、実際には底面の大きさよりも大きい開口部周縁の輪郭形状は図面上現れないものであるから、円形の凹部は、実際上正面図に描かれた円形よりかなり大きく視認される旨主張する。しかし、正面図縦中央断面図をみれば、本願意匠の円形の凹部の内面は底面に向かって緩やかに萎んたほぼすりばち状の形状を呈し、底面とそれに向かって緩やかに萎んた傾斜部分との境ははっきりしたものではないから、原告の主張するように、正面図に表された円形が、凹部の底面の大きさを表示したものとみることはできず、むしろ凹部の開口部周縁を表す線とみるべきものであり、正面図縦中央断面図において円形の凹部を表示する線もその大きさと位置を表示しているにすぎないものであって、視覚的には実線として明白に認識されるものではない。したがって、円形の凹部は、実際上正面図に描かれた円形の大きさよりかなり大きく視認される旨の原告の主張は採用の限りでない。そして、正面図縦中央断面図から凹部の深さが前記のとおり認識できるとしても、絵つけ前の状態にある白地のだるまを外から全体としてみるときには、容易に認識し得ないことであるから、原告が〈2〉として指摘する点に、意匠を評価するうえで、格別のこととはいえない。そうすると、本願意匠の円形の凹部は、腹部に相当する膨らまった部位の中央に白眼より大きな円形のへこみとして看者に認識される程度のものと認められる。そして、その円形のへこみの位置が目に付き易い腹部にあるとしても、その形態を意匠的にみれば、何ら創作的要素のないものであるから、そこに、意匠上の形態的な特徴を見出すことはできない。右のとおり本願意匠における円形の凹部の点は、創作的要素のあるみるべき差異とは評価できず、したがって、円形の凹部の形態について、審決が、類否判断の要素として高く評価できないものであるとした点には何ら誤りはない。

原告が「円形の凹部」に本願意匠の本質的価値(祈願の対象とする臍付き縁起ダルマの価値)があると主張するところは、畢竟、この円形の凹部に祈願の対象とする家紋や標章等を嵌合固着して、縁起ダルマとすることが予定されている点を強調するものである。しかしながら、意匠法は、意匠の創作を奨励するものであるから、意匠の類否判断においては、意匠の構成ないし形態自体について創作的要素のあるみるべき差異があるか否かが問われるのであって、その構成ないし形態を特定の用に供するという着想が右の認定判断を左右するものではない。したがって、本願意匠の円形の凹部が、原告主張のとおり祈願の対象とする家紋等を嵌合固着して、縁起ダルマとすることが予定されている部位であり、たとえ、そのように利用することについての着想が一般需要者の興味と関心を惹くものであるとしても、これによって、前記認定のような円形の凹部の構成ないし形態についての意匠的な評価が左右されるものではない。原告の主張は、要するに、本願意匠の円形の凹部をそのように用いることの斬新さないし目新しさをいうものであって、それ以上に円形の凹部の具体的な構成ないし形態に及ぶものではないと認められる。このように、本願意匠における円形の凹部は形態的に特徴のない円形のへこみにすぎないとみるべきものとすると、原告が、円形の凹部について、「造形上の特徴(特徴的形態)が表されているとの印象を看者に与えるものである」とか、この部分が「構成部分を総合した全体的なまとまりとして、視覚的に強く看者に印象づけられる」と主張する点は理由のないものといわざるを得ない。

本願意匠の要部が円形の凹部にあるとする原告の主張は採用できない。

3  右のとおり本願意匠の円形の凹部に意匠上の要部があるとはいえないとすると、本願意匠においては、審決が認定したとおりの基本的構成態様と具体的構成とをみるべきことになるが、引用意匠にもこれらの基本的構成態様と具体的構成がみられることは原告も認めるところであるから、類否判断を左右する支配的要素である構成ないし形態が共通している以上、これらから生ずる美感も共通するものであるから、本願意匠と引用意匠は、類似するものといわざるを得ない。

右のとおりであるから、本願意匠と引用意匠とを類似意匠とした審決の判断は正当であって、審決には何ら違法の点はない。

三  以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤った違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官小野洋一は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 松野嘉貞)

別紙一

〈省略〉

別紙二

〈省略〉

▲だるまづくり(群馬県豊岡)

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